
寄り道
職場の3階楽屋(たとえ)から
5階表舞台に向かう際
乗ったエレベーター内で
たまに
5Fボタンを押し忘れます
もちろん
それにとどまらず
違うボタンを
押してしまいます
まさに
「ごかい」ですネ
(;^ω^)
概念の定義づけ・事例の設定
本稿では
便宜上
誹謗中傷行為とは
匿名のまま不特定多数に向けて
特定個人の誹謗中傷内容を書き込んだり
特定個人のアカウントに対して
一方的に誹謗中傷のメッセージを発信したりする行為
と定めますプロバイダ(法律上は「特定電気通信役務提供者」)
については
本ケースに即して
大別すると
①発信者が契約してるインターネットサービスプロバイダ
(光ファイバー接続事業者等。携帯端末等から書き込むときは携帯サービス提供事業者がこれに該当します。便宜上「アクセスプロバイダ」といいます。)
②Twitter・GoogleのようなSNS管理者
ウェブページのホスティング事業者
電子掲示板の管理者等
(便宜上「コンテンツプロバイダ」といいます。)
が考えられます例えば
発信者が自ら契約するアクセスプロバイダに接続して
電子掲示板に相手を誹謗中傷する内容を書き込んだケースでは
①掲示板管理者
②掲示板を掲載するウェブサイト運営者
③ウェブサイトのサーバー管理者
のいずれもが
コンテンツプロバイダに当たり得ますコンテンツプロバイダが不明なときは
aguse(アグス)
株式会社日本レジストリサービス
Inter NIC
の各サイトを利用するコトで
「.jp」「.com」等といったドメインの保有者
(ウェブサイト運営者)と
サーバー管理者を
第一次的に特定するコトが可能なようです
それでは
今回のお題を
できるだけ具体的に
分かりやすくするため
次のようなケースを
設けるコトにします
アナタが
SNSにおいて
誹謗中傷する匿名の
ツイートにより
名誉権
(当人の人格的価値に対する社会的な評価)
を侵害されたとして
同匿名ツイートの発信者を
特定したい
などと
考えてるケース
プロバイダ責任制限法の意義
Q1:プロバイダ責任制限法(便宜上「本法」といいます)って
一体どういう法律なんですかA1:本法は条文が全部で5箇条しかないコンパクトな法令です
インターネット上の権利侵害情報の発信に利用されてしまった
プロバイダ(プラットフォーマー)が
情報の削除を行わなかった場合又は行った場合の
それぞれについて
プロバイダの損害賠償責任の免責要件を定めつつ
匿名の発信者を調査するため
プロバイダが保有する発信者の情報の開示を請求できる権利
を規定しました
なーお
本法は
インターネット上の権利侵害情報の削除を求める権利自体を
定めたものではありませんから
プロバイダは請求に応じるかどうかを任意に決める
コトができます注1-1:本法の正式名称は
「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」です法律名って本当に長~いですよネ😪
注1-2:本法は
権利侵害の明白性を要件とし
裁判では
請求者において
①社会的評価の低下を基礎づける事実
②違法性阻却事由(公共性、公益性、真実性)の不存在
につき立証責任を負います
(東京地方裁判所平成15年3月31日判決・判例時報1817号84頁参照)
といっても
公共性がない(私事である)コト
公益目的でない(加害・報復目的である)コト
情報が事実でないコト
のいずれか一つを立証できれば
違法性阻却事由の不存在
(前記要件②)
の充足が可能です
更に深堀りすると
近時の発信者情報開示訴訟では
プロバイダ側が
発信者作成の陳述書等を訴訟に提出するコトで
請求者側の権利侵害の明白性という要件が
充足されてないとして
開示請求を棄却(請求者敗訴)する
裁判例が
多くなってるようです
ただーし
開示請求を棄却した原判決を取り消して
発信者情報の開示を認めた(権利侵害明白性の要件充足を肯定)
高裁判決も出ています
(東京高等裁判所令和2年11月11日判決・判例タイムズ1481号64頁参照)
誹謗中傷行為の特定、証拠保全、コンテンツプロバイダへの削除依頼・情報開示請求
Q2:本法がどういう法律なのかは一応分かりました
じゃあ
インターネット上の権利侵害情報の削除を求めたいとき
どうしたらよいのですかA2:まーず
インターネット上の権利侵害情報
本ケースでいえば
具体的な誹謗中傷行為を特定する必要があります
誹謗中傷行為の特定が済んだら
証拠保全しておきます
例えば
①投稿(コメント)画面をキャプチャ(データ保存)
URLをメモ②発信者プロフィール画面をキャプチャ
URLをメモ③書込み日時をメモ
などです
そして
コンテンツプロバイダに対し
任意(自主的)に記事を削除してもらうコト
(ただし、プロバイダに削除の法的義務はありません)
を依頼するとともに
本法に基づき
発信者の情報開示を請求
(ただし、プロバイダに開示の法的義務はありません)
するコトになります注2:蛇足(注意喚起の趣旨)ですが
「1対1」の通信にすぎない電子メールでのやりとりは
たとえ
内容が誹謗中傷にわたっても本法の適用対象外です
削除依頼・情報開示請求に関する具体的な方法・手続
Q3:だからさ
コンテンツプロバイダに対して
削除依頼・情報開示請求の仕方を
具体的に
教えてほしいんですけど・・・A3:気が利かなくて
すみません
本ケースでは
SNSが用意しているフォームから
依頼・請求するコトができます
もーし
フォームが存在しないケースの場合
次の2通りが考えられます
①民間団体(プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会)
が策定した書式を活用して削除依頼を行うコト
②「実印による押印+印鑑証明添付」の書面
又は「電子署名付きの」Eメールをプロバイダに送るコト
プロバイダは
発信者情報開示請求に比べて
削除依頼について
柔軟に応じる傾向があります
SNS利用規約違反や違法性が明らかなときは
プロバイダにおいて
任意に権利侵害情報を削除する可能性が高まります
発信者情報開示請求をすると
プロバイダは発信者に対し
開示の許否につき
意見聴取をするため
発信者への事実上の抑止力も期待できます注3:削除依頼に関する具体的な方法・手続が不明な場合には
違法・有害情報相談センター(総務省支援事業)に問い合わせてみてください
コンテンツプロバイダに対する削除・情報開示の仮処分申立て
Q4:コンテンツプロバイダが削除や発信者情報の開示に任意に応じないとき
どうすればよいのか
教えてもらえませんかA4:ここからは
超耳寄り情報といっても
過言ではありませんが
アナタのような志高き本気の方を支援するため
特別にサービスしましょう!
任意に応じてもらえないときは
通常
仮処分の裁判を申し立てるコトになります
なーぜ
訴訟を提起するのではなく
仮処分という裁判を申し立てるのか
という疑問が
生じるかもしれません
なぜかというと
一般的に
訴訟提起しても
その目的(勝訴・和解等)達成に至るまでに
どうしても時間がかかります
その間
①権利侵害行為が継続しては困るので
その権利侵害を一旦止めるためと
②必要情報の保存期間が短いので
速やかに
情報開示を実現するために
仮の手続
(権利侵害行為の削除・発信者情報の開示を求める仮処分)
を申し立てた上で
訴訟を提起して発信者の特定を目指すコトになります
コンテンツプロバイダが
海外事業者か
国内のそれか
を問わず
コレに対する仮処分の土地管轄
(どこの裁判所に裁判を提起できるかという概念)
は東京地方裁判所です
実際
仮処分の申立てから削除・開示決定があるまでに
要する期間は
一般に
国内のコンテンツプロバイダで
2週間~2か月のようです
仮処分自体は
通常の訴訟と比べて
簡易迅速な手続ですが
海外のコンテンツプロバイダの場合
関係書類の海外送達に時間を要するコトもあって
3~4か月程度かかるといわれてます注4-1:コンテンツプロバイダから開示されたIPアドレスが
海外のモノだと
発信者の特定は事実上不可能となるようです
参考のため
海外事業者に関する管轄の関係条文を示すと
民事訴訟法3条の3第5号
同法10条の2
民事訴訟規則6条の2
です
アクセスプロバイダの割り出し及びこれに対する訴訟提起、削除禁止・情報開示の仮処分申立て
Q5:図々しいと思いつつ
コンテンツプロバイダに対する仮処分により
権利侵害情報の削除や発信者情報の開示がされた後に
どうなるのかも教えてもらわないと
明らかに中途半端ですよネ・・・注5-1:発信者情報を入手した場合
民事損害賠償請求訴訟を提起したり
刑事告訴
(名誉棄損、侮辱、業務妨害等)
の検討が
視野に入ってきたりします
もっとも
日本の前記賠償請求訴訟で
認容される賠償額は高額とはいえず
費用対効果に問題が残る
といわれてます注5-2:着手金・成功報酬等の弁護士費用や
申立手数料等の裁判費用などの
概要については
熟慮の末
本稿では割愛しました注5-3:知的財産高等裁判所平成30年4月25日判決・発信者情報開示請求控訴事件において
ツイッターを用いてツイートした者が本法上の侵害情報を
発信した場合に
その者の最新
(注:侵害情報の発信行為時から明らかに時間が経過してる)
のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは
侵害情報の発信行為とは無関係であって
発信者情報の範囲に含まれない旨判断されました
誹謗中傷行為への対処のまとめ
Q6:コンテンツプロバイダやアクセスプロバイダあるいはIPアドレスはたまた訴訟提起や仮処分申立てなど
いろいろな言葉が出てきて頭の整理がつきません。
申し訳ないですが
もう一度
分かりやすく
説明してもらえませんかA6:(心中、ここまで付き合う義理はない、と思いつつ)
分かりました
でーは
視点・切り口を変えてもう一度触れてみます
誹謗中傷行為への対処の眼目は
発信者の特定です
つまり
発信者の住所・氏名等を知るコトが重要ですから
発信者と直接契約を結んでその住所・氏名等の情報を
保有してるアクセスプロバイダを
ターゲットにしたいワケです
ただーし
発信者の住所等は秘匿性が高いので
アクセスプロバイダは
任意にその情報開示に応じない可能性が高いです
なので
訴訟を提起して情報開示を勝ち取るコト
を目指します
ところで
誹謗中傷行為それ自体にスポットを当てると
そこで知り得る発信者の情報としては
コンテンツプロバイダが保有している
誹謗中傷行為時に使用された
IPアドレスとタイムスタンプ
の情報に限られます
そのため
まずは
コンテンツプロバイダに対し
誹謗中傷情報削除・発信者情報(IPアドレス等)開示
の仮処分申立てと訴訟提起をするコトになるのです
ここで
見落としがちなのは
コンテンツプロバイダを介して
IPアドレス等を把握したからといって
コレにより
アクセスプロバイダを割り出すコトができても
更に進んで
発信者まで
直ちに特定できるワケではない
というコトです
すなわーち
アクセスプロバイダが割り出されたら
今度は
アクセスプロバイダが保有する
IPアドレス等を確認
(コンテンツプロバイダ保有のIPアドレス等との照合)
するコトで
やーっと
発信者の住所等
(ただ後記のとおり情報開示範囲から住所を除外した裁判例あり)
にたどり着けるというコトです
そして
アクセスプロバイダとの関係でも
IPアドレス等の保存期間の問題が残るので
IPアドレス等削除禁止・発信者情報
(IPアドレス等と住所等)
開示の仮処分と訴訟
を併用するコトになります
以上ですが
いかがでしたか
とりあえず
分かってもらえたコトにさせてください!😉注6:インターネット上の動画共有サービス運営会社にサーバーの提供等をしてる
サーバー管理会社(コンテンツプロバイダ)に対する発信者情報開示請求に関し
その情報開示範囲として
氏名(名称)と電子メールアドレスは
認容したものの
住所について認めなかった裁判例
(東京地方裁判所令和元年10月30日判決・発信者情報開示請求事件)
があります
念のため
以下に
要点の項目出し
をしておきます
- 誹謗中傷行為の特定
- 誹謗中傷行為の証拠保全
- コンテンツプロバイダへの削除依頼・情報開示請求
- 削除依頼・情報開示請求に関する具体的な方法・手続
- コンテンツプロバイダに対する削除・情報開示の仮処分申立て
- アクセスプロバイダの割り出し及びこれに対する訴訟提起、削除禁止・情報開示の仮処分申立て
- 民事損害賠償請求訴訟の提起、刑事告訴
法改正・省令改正の動き
みてきたとおり
誹謗中傷行為に
対処するための
一連の方法・手続は
煩瑣(はんさ)で
費用と時間を要するほか
情報保存期間の問題も絡む
のみならず
費用対効果が見合う
保証もないコトから
被害者側に不利な
傾向がありました
例えば
総務省は
S NS事業者(コンテンツプロバイダ)が
保有する
発信者の電話番号を
情報開示対象とすべき旨の
省令改正をするとともに
電話通信分野における
個人情報保護ガイドラインの解説を改め
電話番号の開示を受けた
被害者側から
弁護士照会を受けた
電話会社が
電話番号に対応する
利用者の氏名・住所を
回答するコトは
通信の秘密を
侵害するものではない
との解釈を
明確化しました
コレにより
一定の類型では
被害者救済の迅速化が
期待できます
リスクマネジメント、法律専門家への相談・依頼の検討
SNSは
情報発信の
便利かつ有用な
ツールですが
攻め一辺倒ではなく
守りのリスクマネジメント
(危機管理)
も大切!
そして
誹謗中傷による
被害に対し
適正迅速に対処するには
やはり
この分野を得意とする
弁護士への相談・依頼も
検討してみてください
(。-_-。)
主な参考文献・情報元
◇総務省ホームページ内
◇NBL No1118(2021.2.15)論説「発信者情報開示の在り方に関する研究会最終とりまとめから読み解く企業担当者の実務の留意点」
◇〔Jurist〕February 2021/Number 1554 特集「インターネット上の誹謗中傷問題」
追記
令和3年4月21日
改正プロバイダ責任制限法が
可決成立しました
明年秋頃
施行される予定です
改正の「さわり」の部分(要点)
だけ触れておきます
発信者の特定について
現行の仮処分と訴訟の2段階
そして
訴訟についても
コンテンツプロバイダと
アクセスプロバイダ
の2段階
の手続を一つに
完結させてます
具体的には
開示請求者(被害者)
の申立てにより
裁判所は
①コンテンツプロバイダ保有の
発信者情報を
開示請求者に秘密にしたまま
アクセスプロバイダに提供する
「提出命令」を発令し
②アクセスプロバイダに対しては
発信者情報の消去を禁止する
「消去禁止命令」を発令します
③その後
アクセスプロバイダが
審理に参加し
開示要件を満たす場合には
コンテンツプロバイダ
及びアクセスプロバイダ
に対する
「開示命令」を発令します
このように
複数の命令を
一つの裁判手続で
行うコトにより
これまで段階的に
分かれてた
裁判手続の負担を
軽減するコトが
可能となりました
今回の新しい裁判手続が
海外のコンテンツプロバイダ
に対する請求を
どの程度容易にするのか
については
なお不透明感が残りますが
今後
明らかになった段階で
更に追記するか
別稿を投稿する
かもでーす
(^-^)